学生および研究者の起業支援を一元化し強化することを目的として起業支援に注力している近畿大学は、2024年中に100社を突破する勢いで起業家を増やしているそうです。その成果の裏には「KINCUBA」(キンキュバ)という近畿大学発ベンチャー起業支援プログラムと、大学全体として起業支援に力を入れ、学生のキャリアの可能性を広げようという取り組みの結果と言えます。
今回は、経営戦略本部 起業・関連会社支援室長 松本様に近畿大学の起業支援の取り組みと、これからどのような大学を目指していくのかお話を伺いました。
なぜ近畿大学は、起業支援に力を入れ始めたのか?
1-1.近畿大学が起業支援に力を入れ始めた経緯を教えていただけますか。
大学は単なる知識の提供だけでなく、社会に対して積極的な貢献を果たすべき存在と捉えています。昨今の社会では、起業気運が高まるなか、新しいアイデアや技術が求められ、個々の力がより強く評価されるようになってきたことを大学は敏感にとらえています。
2017年度から起業人材育成プログラムを毎年充実し、起業家やVCによるメンタリングを行い、最終審査に合格すると法人設立資金等を支援する「アクセラレーションプログラム」や、学習×実践を取り組むことを通じ経営スキルを体得する「KINDAI STARTUP ACADEMY」、本場シリコンバレー生まれの起業家育成プログラム「Lean Launch Pad」等を対面やオンラインで実施し、2023年度は多数のワークショップ、セミナー、イベントに加えて5つのプログラムを実施しています。
国はスタートアップ創出支援を発表し、本学は上記のプログラムに参加した学生の活躍やプログラム実施の効果等を背景に、大学全体で起業支援をさらに強化するため、2021年 9 月に経営戦略本部に起業・関連会社支援室を新設しました。本学は、起業に関し下記の 3 つのビジョンを掲げ、研究者・学生が経済成長を支える一翼を担ってくれることを期待しています。
・実学教育として、学問の結果を世の中に貢献できるビジネスに変えていくことを目指す。
・世の中全体が新規事業・スタートアップ創出を後押ししており、その人材を育成することは大学としての使命である。
・大学のキャンパスを実証フィールドとして、社会を変革しイノベーションを生み出すようなベンチャー企業を近畿大学から創出する。
1-2.最近では他大学でも起業サポートを行っている場所も多くなってきましたが、近畿大学としてはどのような部分が他大学とはサポート面などで差別化できていると思われるか教えていただけますか。
起業サポートを行う場所として特徴的なのが、2022年10月に開設したインキュベーション施設「KINCUBA Basecamp」です。
近畿大学東大阪キャンパス 西門を出て3メートルという好立地に、学生からの要望を取り入れて24時間利用、法人登記を可能とし、入館時の顔認証システムの導入や、夜間見回りの実施、防犯カメラの設置などを行うことで、何時でも安心して利用でき、施設利用料500円/月・法人登記料500円/月という安価で、起業の拠点として使用していただけます。
また、外部の士業、起業家、OBOG等を講師に招きセミナー・イベントを開催し交流することにも重点を置き、多くの情報・人脈形成に繋がるような支援を行っています。イベントは、多い時は月~金に4回や、1階と2階で各イベント同時開催等も行っています。
また、「KINCUBA Basecamp」は2023年8月に開催されたオープンキャンパスでは、10人に1人は立ち寄っていただくほどの注目される施設となり、是非、足を運んでいただき活発に活動している起業家学生を身近に感じてもらえると嬉しいです。
これまでの KINCUBA の取り組み・実績
2-1.これまでの大学としてはどのような支援を行って来られたのでしょうか。
大学としては、起業家学生や事業立ち上げに挑戦しようとする学生を身近な存在として捉えてもらえるような仕組づくりに注力しています。
「KINCUBA」の起業家人材育成プログラムでは、学生を「起業準備層」「起業予備層」「起業憧れ層」の3つのステージに分け、それぞれの層の興味・レベルに応じて、プログラム、セミナー、イベント等を随時開催しています。
以前は、興味はあるが、”よく分からない””失敗するのが怖い”等を理由に起業を躊躇する学生が多かったように思います。そこで、起業に関する仲間づくり、情報収集や情報共有することにより、起業に対する正しい知識や起業支援を受けることができるコミュニティ「起業ナビ」というSlackのグループを作り1,228人(令和6年1月5日現在)が参加し活動しています。
Slack内では下記のような情報が発信されています。
・起業家学生が、インターンシップを募集
・起業を目指す学生が、イベントの情報を発信
・クラウドファンディングの開始案内・協力依頼・実施報告
・運営側から、イベント・セミナーの案内
・学外からの起業に関する各種案内を随時配信
・メディア(テレビ、ラジオなど)出演の募集 など
上述のように、多くの情報が日々飛び交う活発なコミュニティになっています。
そして、2023年4月からは、「暮らしのなかの起業入門」という正課授業を開講し、全学部対象で前期15コマ2単位の講義で、起業に関する知識を広く習得できるようにしました。オンデマンドで受講できることもあり、定員200人に対し、抽選履修申込者 794人の応募をいただき関心の高さに驚き、起業について学びたい・興味があるという学生のために定員を増やす準備をしています。
2-2.KINCUBA には、どのような方が参画されているのでしょうか。
近畿大学で起業支援に携わっているのは、起業・関連会社支援室職員を中心に、支援スタッフ、KINCUBAメンター、士業、起業家、OBOG等、学内外の多くの方々に支えられ起業家人材育成を行っています。
起業家人材育成を強化してきた結果、焼いも事業(グーイー株式会社 代表取締役 余野 桜さん 国際学部 4年)、テントサウナ事業(株式会社BraveValley 代表取締役 谷 勇紀さん 経営学部 4年)等が起業し、さらに学内外で事業検証を積極的に行い、メディアに多く取り上げられる姿を見ることは、「自分も何かに挑戦したい!」と起業に対する興味や意欲を持つ好機になっていると考えます。
2-3.近大をすすらんかの取り組みについて教えてほしいです。
東大阪キャンパス ブロッサムカフェ 1階にコンビニや他店舗と軒を連ね、学生が経営するラーメン店「KINDAI Ramen Venture 近大をすすらんか。」があります。「KINDAI Ramen Venture 近大をすすらんか。」とは、2021年10月から近大生が運営する学生飲食店起業支援プロジェクトのことで、本学学生が実際にラーメン店を起業・経営することで、実践的な飲食店経営を学び、卒業後の事業展開や新たな起業をめざすことを支援するものです。
初代店長は、現在の株式会社やるかやらんか 代表取締役 西 奈槻さん 実学社会起業イノベーション学位プログラム 修士課程 1年で、経営期間1年6カ月で、31,622杯のラーメンを売上げ、6,306,414円の純利益を得ています。2代目(2023年度)は村上 黎一郎さん 総合社会学部 4年 、2023年12月13日には3代目(2024年度)を決定する選考会を実施しました。
店舗経営を行い、四半期毎に大学へ収支を報告し実績が評価される厳しい制度を設けています。2期連続赤字であれば原則撤退とすることで、赤字の累積によって学生の経済的負担が大きくなることを防止しています。経営には、商品開発、リピーター獲得、スタッフ教育、経費削減、経営分析等が問われますが、代表選考では本気度や熱意を重要視しています。
経営者は、2つの選考を突破した1名が選ばれます。1次選考でラーメンを作る工程、仕上がり温度、所要時間、味等を審査し、2次選考ではプレゼン発表を行い事業計画や独自性、実効性を確認します。2つの審査の総合得点で決定します。
学内でビジネスを体験でき、周囲に相談できる心強い職員・協力者も多いですが、店舗運営を任された経営者は、ランニングコストは自らの負担で行い、食品衛生責任者・営業許可証の取得、個人事業主の届出など、必要な準備を全て自分自身で行うため責任感とリーダーシップを養うことができます。
3代目は、2024年4月から営業開始となり、初代、2代目から受け継いだ店舗をより盛り上げることが期待されています。
2-4. 上記の苦労を経て、KINCUBA の中でこれは大きな一歩だと感じられたことや、実績 として謳うことができると思った内容について教えていただけますか。
大学での起業支援の成果として、学外のビジネスコンテストに登壇し受賞する学生が増えてきました。直近では、「GSEA 京都大会 2023」で最優秀賞を受賞しました。 「GSEA 大阪大会 2023」では、5 名の登壇者のうち 2 名が近畿大学起業家学生で、そのうち1 名は 2 位といった結果も残せるようになりました。
また、学外での事業検証の数も増えています。
大学では、アイデアを事業化するプログラムの他に、プレゼンのワークショップの開催や、事業検証を行う機会を学生に提供・紹介しています。学生たちは、主にスモールビジネスとしてスタートし、事業検証を通じて市場のニーズを理解し、ビジネスアイデアを着実に育てています。このプロセスは学生たちにとって貴重な経験であり、将来の起業家としてのスキルを養う重要なステップとなっています。
大学は引き続き、学生たちが学外のビジコンに登壇することや、事業検証の実施をサポートいたします。
これからの挑戦・計画について(未来)
3-1. 近畿大学ではこれから 2025 年までに 100 社の大学発ベンチャーを生み出していくというKPIを掲げていますが、この目標に向けてどのような取り組みに力を入れていくのか 教えていただけますか。
KINCUBA プログラムは、随時改善しながら継続して実施いたします。強化したいのは、低学年層の起業家マインドの醸成です。 卒業時に、就職・進学・起業と選択肢のひとつとして起業は考えられています。 さらに、社会は起業家人材を求めており、在学中に起業した学生が、近畿大学発ベンチャー企業の代表であり続けることを了承のうえ、大手企業に内定をいただいた事例もあります。 100社というのはあくまで通過点でしかなく、自分の可能性に挑戦しようと思える土壌を作っていくことができれば、自然と潜在的に起業や事業立ち上げに挑戦したいと思う学生にもアプローチが可能だと考えています。
このように、起業家マインドをもつ人材育成のために、早期からチャレンジできるよう、附属高校生や大学 1・2 年生を対象にした支援を強化してまいります。
3-2. KINCUBA に協力して欲しい方々や、在学生に向けてのメッセージがありましたら教えていただけますか。
●長期インターン受け入れにご協力いただける法人様
・実際のビジネス環境で働くことで、学生は理論的な知識を実際の課題に適用できる。
・特定の業界や市場における洞察を得ることができる。
・築かれる人脈は、将来の起業家にとって重要な資産となる。
・チームワーク、問題解決、コミュニケーションなどの実践的なスキルが向上する。
以上、4点を在学時に経験として得ることができれば、その後の人生・キャリアに大きく影響を与えると考えられるため、ご協力を賜ることができる法人様は是非ご連絡をいただければ幸いです。
●在学生へのメッセージ
学生時代の起業経験が評価される社会になってきています。成否は関係なく、 起業に挑戦したことがイノベーションの創出につながり、挑戦した学生自身にも貴重な経験になり、唯一無二のガクチカとして就職活動にも必ず役に立ちます。 就職活動や進学の準備を考えるとチャレンジする時期は早期が良いと思います。実際、低学年から起業家人材育成プログラムのいずれかに参加していた学生が起業して継続している事例を多く見ます。
何事もスムーズに進むことは稀であり、失敗を軽んじず、むしろそれを前進する力として受け入れ、次なる挑戦に向けて積極的に取り組んでほしいと思います。失敗は終点ではなく、新たな始まりの可能性でもあることを理解し、たくさんチャレンジしてください。
さいごに
このように、近畿大学では起業・事業立ち上げの後押しをするために、大学全体で支援を行うサポート体制が整っています。東大阪キャンパスが立地する東大阪市は、日本有数のモノづくりの拠点として知られ、IT関係にとどまらずこの地の利を最大限に活かし、さらに独自のビジネスを展開して欲しいと思います。
また、近畿大学は、大阪府だけでなく奈良県、和歌山県、広島県、福岡県に計6つのキャンパスがあり、学生は地元企業や自治体と協力し、SDGsの実現や地域社会の発展に寄与する活動に積極的に取組み、地方創生への貢献が期待されています。本学は、57万人を超える卒業生が構築した全国展開のネットワークも活用して、新たなビジネスや技術の創出等により、未来のビジネスリーダーを輩出し社会課題の解決に貢献してまいります。
大学名 | 近畿大学 |
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所在地 | 大阪府東大阪市小若江3丁目4-1 |
設立年 | 1949年 |
インタビュイー | 松本 牧子 (経営戦略本部 起業・関連会社支援室長) |
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