郊外暮らしの再発明 ー大分大学准教授 柴田建ー
今西麻理子
目次

▪ 日の里での「郊外暮らしの再発明プロジェクト」


(柴田建准教授)

ーー「まちづくり」を意識されるようになったきっかけをお伺いしたいです。

柴田建准教授(以下、柴田准教授):専門が建築関連の大学教員ではありますが、民間企業と住宅地開発に関わる機会が多かったんです。これまでとは違う街並みに配慮した、あるいはコミュニティがある住宅地を創ることに注力していました。しかし、進めていく段階で気付いたことは「もう新築の住宅地を創る時代ではない」ということです。より良いものを創出するということよりも、「今あるもの・地域をどのように変えていくか」ということが重要になってきます。

元々の専門は戸建て住宅でしたので、住宅地に関することを国内外で研究し、実際に提案もしてきました。最初は中古住宅のリノベーションの取り組みをしておりまして、この取り組みがまちづくりに繋がると考えていました。ですが、進めていくうちに住宅デザイナーの仲間に「住宅の格好良いリノベーションだけ進めても、若い人たちはこのまちに住みたいとは思わない」と言われてしまったんです。そこで、「これからの地域に住む若い世代自体が楽しいと思うまちを創る」必要があると実感しました。

ーー日の里の活動について詳しくお伺いしたいです。

柴田准教授:福岡県宗像市の日の里ニュータウンは1971年に街開きをしたのですが、私が生まれ育った団地なんです。現在このニュータウンは50年近く経っていて中古住宅がたくさんあります。
そこで、2017年3月に日の里で若い人に住んでもらえるようにするための活動「みんなの秘密基地 日の里 THIRD BASE」を開設し、地域活動の担い手育成を行ってきました。
2020年1月にはUR都市機構が公募を行っていた「UR日の里団地東街区の土地建物」の譲受人に、「福岡県宗像市日の里団地共同企業体(※)」(以下、日の里JV)が決定。
2021年には、日の里JVのプロジェクトの一環として、元UR五階建て住棟(四十八号棟)を地域拠点にリノベーションした施設「ひのさと48」がオープンしました。この元住棟で担い手の方々がより魅力的な活動をしています。

※ 構成企業:住友林業(代表企業)、セキスイハイム九州、ミサワホーム九州、大和ハウス工業、パナソニックホームズ、積水ハウス、トヨタホーム九州、東宝ホーム、西部ガス、東宝レオ



(日の里 THIRD BASEでのDIYの様子)

(ひのさと48)

ーー現在日の里はかなり高齢者が多いのでしょうか?

柴田准教授:はい、多いです。50周年を迎えたニュータウンですので、当時から住んでいる方々の高齢化が進んでいます。放っておいてもある程度の住み変わりはありますが、私は日の里で地域のリブランディングをしたいという想いがありました。

ーー日の里は福岡から遠いのですか?

柴田准教授:日の里は福岡から電車で30分程かかります。現在福岡からより近い所で新規開発されているので、そこで若い人が滞ってしまうんです。ですので、古い郊外だからこそできる新しいライフスタイルの提案をして、成功するストーリーをつくりたいと考えていました。ですので「まちづくり」というよりは「郊外暮らしの再発明」を行っています。

ーー活動を始められた時、ターゲットはどのくらいの層に絞っていたのですか?

柴田准教授:30,40代に設定していました。特に、日の里に昼間いる子育て中の女性が担い手になることを期待していました。

しかし、現在コロナウイルスの影響で、都市部の方達はリモートワークを皆さん経験しましたよね。これにより昼間も自宅で働く人が増え、ターゲットを女性に絞ってしまうこと自体が間違っていたということ、女性の役割を固定化するような古い考え方であったと実感しました。

現在「ひのさと48」には昼間にも男性がかなりいらっしゃいます。リモートワークをしながら気分転換に散歩に行ったりできる環境がここにあると思います。

ーー柴田准教授と一緒に始められた方は日の里JVの方だったのですか?

柴田准教授:リノベーションの専門家と二人で始動しました。

この分野に関する人たちを募集するために毎月「郊外暮らしの再生塾in日の里ニュータウン」というワークショップを実施していたため、そこで民間企業の方や地元のクリエイターにも参加していただきました。今はこういった方々(日の里JV)がこのプロジェクトを進めています。

このように「日の里 THIRD BASE」は外部の人と繋げる役割を担っていました。
従来は町内会ベースだと思うのですが、ここではとにかく外部の人達、民間企業の力も入れていくというところがポイントだったかなと思います。

(郊外暮らしの再生塾in日の里ニュータウン)

ーーそちらのワークショップにはどのような方がご登壇されていたのですか?

柴田准教授:2017年に大阪の泉北ニュータウンでも、中古住宅のリノベーションによるニュータウン再生が行われていました。ですので、このワークショップには泉北のキーマンの方に講師として登壇してもらったり、DIYリノベーションによるエリア活性化などの先駆者の方々に来ていただきました。

ーー全てイチから始められたということで困難な事も多かったかと思いますが、日の里での活動に於いて一番苦労した事は何でしたか?

柴田准教授:とにかく現地にいる時間をどれだけ確保できるかという点でした。実際にサードベース2階の部屋に泊まれる場所があったので週2,3回泊まり、なるべく現地でご飯を食べたりしていました。会議室だけで話してもなかなか話は進みません。多様な人とのなにげない雑談から生まれたアイデアが多くあります。

ーー現在の日の里で行われているプロジェクト進捗状況をお伺いしてもよろしいでしょうか。

柴田准教授:2021年に日の里は50周年を迎えたのですが、2018年に日の里全戸に配布したタブロイド紙「日の里NEXT50」では次の50年の郊外暮らしを再発明し、地域のバージョンアップを図る宣言をしました。

①四車線ある駅前通りの再生(車の空間から人の場へ)
②すでに立ち退きが終了していたUR十棟の再生
③空き店舗をリノベーションした日の里THIRD BASEでのスタートアップ
④空き地を活用したコミュニティファーム

まずこの①に関しましては、4つの中でも一番大規模のプロジェクトになると思います。現在はコロナ禍でなかなかワークショップができない状況ですが、これから進めていく予定です。こちらも同様に単なるマンション開発ではなく、コミュニティ拠点をどのように作るか等を提案していこうと考えています。これからの日の里の持続性をどのように高めることができるかが重要になってくるかと思います。

②は団地十棟再生ですが、その一部が「ひのさと48」です。
十棟全て取り壊してしまうと仮にコミュニティ拠点を設けてもそこには資金力のある全国チェーンのカフェ等しか入れないという懸念がありました。これは避けたかったため、「一棟だけは残しておき、コミュニティ用にカフェやコワーキングスペースなどの居住者自身が運営に関わる場所を設ける」という案をワークショップ(「郊外暮らしの再生塾」の一環)でまとめ、日の里JVのプロジェクトとして実現されました。駄菓子屋、クラフトビールの醸造所、工房等の働くことができる場、そして団地の外壁にボルダリングが設置されています。

③が「日の里THIRD BASE」です。
コンセプトは”地域の会話量を増やす場所”。

④も日の里JVや地域の人とともに、空き地を利用したクラフトビールの原料を植える畑が開墾できればおもしろいなと考えています。

ーーなぜクラフトビールなのでしょうか?

柴田准教授:30,40代の比較的アクティブな方が集まりやすいということと、単価が高いため商売として成り立ちやすいということが挙げられるかと思います。

地域の人が集う場としては、多様な仕組みを設置することが重要だと考えます。子どもの遊び場があり、カフェはお母さん達に人気ですし、クラフトビールだとお父さんが集まります。いわば部活のようなもので、運動部と文化部が集まっているような、そんなコミュニティになると思っています。関心・興味で集まるコミュニティがまちの活性化に繋がるのではないでしょうか。

▪. 空き地を利用し、住みたいまちへ


ーーこれから広げていく予定の活動はございますか?

柴田准教授:「TAKETA空き地戦略本部」です。
大分県の城下町の竹田市では、現在空き地が非常に増えてきているので、この空き地を上手く活用して住みたくなる街に変えていこうと活動を行っており、ここで暮らしながら生業を作れるような街として再生しようと進めています。

(TAKETA空き地戦略本部活動の様子)

ーー具体的にどのように進めていらっしゃるのですか?

柴田准教授:こちらではまた空き地を借りているのですが、現地での活動を心掛けています。去年の冬に「毎週金曜に空き地でテントを張っています」という宣言をして、実行していました。そうすると何してるのかと人が寄ってくるんです。そこで繋がりができたため、現在はそのメンバーや民間企業とともに組織としてまちの再生を目指します。

また竹田は去年から活動を行ってるのですが、大分の別の団地戸建て住宅やベッドタウンの空き店舗の取り組みも行なっていく予定です。

〇おわりに


最後に、柴田教授から地域創生に関してMade In Localを見てくださっている方に向けて一言頂きました。

「ポストコロナの生業暮らしを考える際に、従来の中央地方、都心、郊外ということが問い直されていきます。」

柴田准教授は「郊外暮らしの再発明」を通して、SDGsの目標の一つである「住み続けられるまちづくり」を体現されています。
今回お話を伺い、地域住民一人ひとりが楽しいと思うまちを築くには、住民と一緒に創り上げていくことが重要であると実感いたしました。
引き続き、地域創生への貢献も含めて、Made In Localを通じて発信していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

研究者名

柴田 建 准教授

所属

大分大学理工学部准教授(2021年度現在)

研究内容

都市計画・建築計画
国内外の郊外住宅地のコミュニティ研究

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